2025年12月24日更新
特別番組
フジテレビ(関東ローカル)
2025年6月14日(土) 13:30~14:30
BSフジ(全国放送)
2025年6月29日(日) 17:00~17:55
2025年春、第33回地球環境大賞が発表された頃、日本では“食卓の危機”という言葉が頻繁にニュースに流れていました。気候変動による不作や物流の混乱が、米や野菜といった身近な食材の供給に影響を及ぼし始めていたのです。今年の受賞テーマにも「食」に関する取り組みが多く含まれており、社会全体が「日本の食の未来」に対して強い関心を持ち始めていると感じました。
その時、私は番組リサーチの中で、一つの国にたどり着きました。農地は国土の1%、食料の9割以上を輸入に依存―日本と似た課題を抱えながらも、すでに大胆な挑戦を続けている国、シンガポールです。


シンガポールでは、食料自給率を2030年までに30%へ引き上げる「30 by 30」という国家プロジェクトが進行中です。都市の中に建設計画中のアグリフード・イノベーション・パークでは、垂直農業、陸上養殖、フードテック、物流、研究機関が一体となった新たな食のエコシステムが構築されつつありました。「都市の中で食料をつくる」という発想が、ここではすでに社会実装されようとしているのです。
私はそこに、日本の食の未来を救うヒントがあるのではないかと考え、取材を決めました。


しかし、現地で取材してまず驚いたのは、国民の多くが食や環境問題に強い関心を持っているわけではないということでした。実はこの“無関心さ”に、私は妙に親近感を覚えました。日本もまた、日常の中で環境の危機を“自分ごと”として捉えにくい社会だからです。それでも、シンガポールでは未来を変えるような挑戦が、静かにはじまっていました。


垂直農場や陸上養殖の現場を訪ねると、そこには驚くほど多くの若い人たちの姿がありました。彼らは単に農業をしているのではありません。データ分析やAI、経営戦略を学び、自ら事業を創り出そうとしていました。農業とテクノロジー、そしてビジネス。そのすべてを理解しようとする若い挑戦者たちは、もはや「農業従事者」ではなく「食の未来のクリエイター」に見えました。



そして、日本ではまだ“実験段階”と思われがちな培養肉。その世界初の販売が認可されたのが、ほかでもないシンガポールです。肉の専門店に当たり前のように並ぶ培養肉を見たとき、「未来はSFじゃなく、もう現実に混ざり始めているんだ」と思いました。それは、万博で見た“3Dプリント肉”のようなSFの延長ではなく、すでに日常に入り込みつつある“新しいリアル”でした。


私がシンガポールで見たのは、“答え”ではありませんでした。でも、“兆し”にはたくさん出会うことができたと思います。
その“兆し”は、きっと日本にもあるのだと信じています。まだ気づいていないだけで。